
法のくすり箱
Q.一人ぐらしの老母には唯一の財産といってよい山林があります。ところが先年母はこの山林を兄に贈与しそのかわりに兄が母の生活をみることになりました。しかし兄は山林の移転登記まで受けながら一向に母の面倒をみないのです。そればかりか母から贈与を受けた山林を担保に金を借りようとしています。母は、兄がこんな状況と分かっていたなら弟の私に山林を渡して世話になるのだったと嘆くのですが、今からでも何とかできないでしょうか?
A.お母さんからお兄さんヘの贈与契約は単純な贈与ではなく、負担付贈与といわれる契約にあたります。このような契約では、受贈者(お兄さん)が負担(義務)の履行を怠ったときは、贈与者(お母さん)は贈与契約を解除することができます。この場合の負担である義務とは、兄さんが、老齢に達した贈与者であるお母さんを扶養し、かつ円満な親子関係を維持することです。このような義務を付けない単なる贈与の場合にはもはや履行済ですから取消はできません。
しかし負担付の贈与ならば義務違反(契約不履行)を理由として契約の解除・取戻しが可能なのです(最高裁昭和53年判例)。したがって改めてお母さんは弟であるあなたに山林を贈与することもできないことではありません。
ただ、兄さんが問題の山林を他に処分されると面倒ですので、できれば弁護士に相談し、とりあえず他人への担保設定を禁止する手続き(処分禁止の仮処分という)をとっておくことです。その後に必要なら調停や訴訟の方向も含めて、兄さんからお母さんへ山林を取り戻す(移転登記)ことになります。親子兄弟の間で、そこまでという考えもあるでしょう。しかしそこまでしなければならないこともなしとしないのが残念ながら現実です。

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