法のくすり箱
Q、母は、私が中学生のとき豆腐屋を開業していた夫を急病で失い、それからは、老齢の祖父(舅)の世話をしながら豆腐屋を続け、一人息子の私を育ててくれました。ようやく成人した私が家業を継ごうとした矢先に、祖父は何の遺言も残さずに亡くなりました。亡父には弟が一人あり、この叔父は仕事に行き詰まっていて、祖父の遺産に対する2分の1の相続権を強く主張しています。自宅兼店舗の不動産の名義はすべて祖父のままとなっており、叔父の言うとおりにすれば家業が成り立ちません。どのようにしたものか困っています。
A、「祖父」の死亡に伴う相続人は、通常、その「配偶者」(祖母)と「子供」です。祖母(配偶者)がすでに亡くなっているこのケースでは、祖父の相続人は子供(父・叔父)です。しかし「父」は死亡しています。このような場合でも、「父」に子供(あなた)がいるときには、父の相続上の権利は子供であるあなたが引き継いで相続することになっています(代襲相続、民法887条)。
「祖父」が何らの遺言を残さなかったとすれば、右のとおり、遺産は「叔父」と「あなた」とが2分の1ずつ相続するということになります。それでは、あなたの家業を続けられない、母が一生懸命祖父の世話をしたり家業を維持した貢献は何ともならないのか、というのがおそらくあなたが困惑されているところでしょう。
まずは、叔父さんに土地家屋について2分の1の相続分をもっと譲歩してもらい、いくらかの代償金を支払うことなどで家業が続けられるように話を持ちかけてみて下さい。それでだめならば、遺産分割の調停を家庭裁判所に提起し、この手続きで同時に被相続人(祖父)へのあなたの寄与分を主張してみて下さい。
寄与分とは、共同相続人の中に、労務の提供・財産上の給付、療養看護などの方法により、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がある場合に、他の相続人との間の実質的な公平を図るため、その寄与相続人に対して相続分以上の財産を取得させる制度です。
父が生前家業を盛り立てて家産の維持に貢献したり、父の配偶者である母が祖父の看護に尽くした貢献などは、父の祖父に対する寄与分であり、これは父の代襲者であるあなたが引き継いでいます。また、父の死後、母が家業の維持や祖父への介護で貢献した実績ですが、あなたと密接な関係にある者(未成年者の法定代理人)による寄与であり、あなた自身の祖父に対する寄与としてこれを評価する余地があります。
遺産分割や寄与分についての調停がまとまらなければ、審判に移行します。そこで家庭裁判所は一切の事情を考慮して、あなたの寄与分を何%とか何割と定め、その残りをそれぞれ2分の1ずつの割合になるように具体的に叔父さんとあなたとに振り分けることになると思われます。

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