製品による被害を救済
製造物責任(PL)法制定
メーカーなどに賠償責任
H7.7.1スタート


 平成7年7月1日より製造物責任法(Product Liability法)がスタートしました。製品に欠陥があり、そのために生命・身体あるいは財産に損害が発生した ときに、メーカーがその損害を賠償する責任(製造物責任)を負う──これがPL法の考え方です。平成6年7月の公布以来、各企業ではPL法対策を進めてきました。

アメリカ社会を揺るがした「PL」

 製造物責任の考え方はアメリカ合衆国においては社会を変革するような効果がありました。さまざまな新たな法律を生み出し、商品を製造中止に追いやる(たとえば豊胸シリコン)、さらに訴訟の頻発は民事裁判を機能マヒに陥らせ、裁判所に代わって紛争解決を生業とする会社がアメリ力社会に定着したほどです。
 アメリカの企業が訴訟対策に使う費用は莫大な額にのぼります(年間約30兆円、ちなみに日本の国家予算は約70兆円)。その多くの部分をPL訴訟が占め、これは結局製品に転嫁されて消費者が負担することになっています。また、PL訴訟で莫大な損害賠償を負担することになった企業のなかには倒産するものもあり、アメリカ経済の弱体化・失業者の増大を招いたとまで言われているほどです。

 わが国で制定された「製造物責任法」はわずか6条の短い法律です。訴訟社会アメリカと状況が異なるわが国において、このPL法が真の消費者保護の法律となるか、どのような形で定着していくのか、その運用が問われます。

消費者の保護を第一目的に

 PL法はその目的として被害者(消費者)の保護を第一にあげています(1条)。
  これまでは、消費者がメーカーの責任を追求するには、民法の不法行為責任を追求するしかありませんでした。そのためには、消費者はメーカーに「過失」があることを立証する必要があります。当該被害が生じることをメーカーは予見できる立場にあったこと、その被害を回避するためにメーカーは何らかの措置を取りえたこと等を、被害者である消費者の側で、立証する必要があるのです。しかし、専門知識に乏しく、その製品の製造手順等すら知り得ない消費者にとっては、メーカーの過失を立証することは非常な困難を伴うものでした。
 そこでPL法では、製品に「欠陥」があることさえ立証すれば「過失」についての立証がなくともメーカーは責任を負うこととし、消費者の立証責任が緩和されました。

欠陥を立証するとは──推定規定の見合わせ

 たしかに「欠陥」という客観的状態を立証するのは、「過失」という幾分主観的なものを立証するのに比べれば、一般的にいえば立証しやすいといえるでしょう。

 しかし一般の消費者にとって、製品に「欠陥」があることを立証するのが容易というわけではありません。たとえば、カラーテレビが突然火を吹き家が全焼したという場合、カラーテレビにどういう欠陥(特定部分のハンダ付け不良、特定部分の配線ミス等々)があったかを明らかにせよといわれても、消費者の側としては困惑するのが通常でしょう。
 そのため、PL法の立法段階では「推定規定」をおくことが検討されました。これはたとえば条文中に「製品によって被害が発生したときは欠陥があったことを推定する」というような規定を入れるわけです。こうすれば、消費者の方が「製品によって被害が発生した」ということさえ立証すれば、「製品になんらかの欠陥があった」と推定され、メーカーの方が「製品に欠陥がなかった」ということを立証しないかぎり、「欠陥」はあったとみなされるものです。しかしながら産業界の強い反対により、PL法の中に「推定規定」をおくことは見送られました。

一般の経験則から 欠陥の有無を判断する

 けれども、なんでもかんでも「欠陥」は消費者の側で立証しなければならないかというとそうではありません。
 たとえばテレビから出火した事件について、大阪地方裁判所の判決(平成6年3月29日)では、消費者の利用方法が「合理的な利用の範囲内」であったのにテレビが出火したとするなら、そのテレビに欠陥があった旨認定して、それ以上の欠陥の特定は不要としてメーカーの責任を認めました。
 一概に欠陥の推定をしないわけではなく、一般の経験則に基づいて、その製品に欠陥がなければ当該被害が発生することはありえないという場合には、その被害が発生した事実から欠陥を推定し、メーカーが欠陥がなかったことを立証しな いかぎり責任を免れない──こうした考え方にたって、特定の状況の下では、こ の経験則に基づいた判断でメーカーが責任を問われることもあります。

警告表示や説明書の不備も「欠陥」とする

 「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(2条2項)。この「欠陥」の中には、@設計上の欠陥、A製造上の欠陥、B表示上の欠陥が含まれます。
@設計上の欠陥
 商品の設計や構造自体が安全性を欠いていること。たとえば衝突されて火災になるような位置に自動車のガソリンタンクがある場合には自動車の構造自体が安全性を欠くと言え、設計上の欠陥があるといえる。

A製造上の欠陥
 製造の過程でミス(たとえばボルトの締め忘れ・配線ミス等)があったため生じた欠陥をいう。


B表示上の欠陥
 製品上に記載されている警告文や製品に添付される取扱説明書に、製品に特有の危険に対する警告や、誤使用による事故を防止するための指示が充分になされていないこと。たとえば、一定量以上服用すると副作用が生じやすい薬についてその旨の注意事項が分かりやすく表示されていない場合や、塩素系洗剤と混ぜると有毒ガスが発生する浴室用洗剤についてこれを禁止する警告文がない場合等々。
 ちなみに、設計及び製造過程の整備により可能な限り危険を取り除いた後でなければ、いくら取扱説明書などで注意・警告していても欠陥ありと判断される。

欠陥の判断基準とは──4つの基準

 「欠陥」は「製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して」判断されます(2条2項)。
第1「製造物の特性」
 製品の社会的効用(有用性)が高いときにはある程度の危険性を許容し、その危険性が有用性を上回る場合のみ欠陥と考えることになります(たとえば医薬品とその副作用の問題)。あるいは、個々の消費者の体質・体調等により被害が発生する可能性がある製品(たとえば化粧品・食料品など)はその特性が個別に考慮されます。

第2「使用形態」
 正当な使用方法による使用のみならず、合理的に予見できる誤使用も含まれます。つまり、合理的に予見できる誤使用から生じる被害を防止するための設計・警告をメーカーが怠っている場合にも、製品に「欠陥」があることになります。たとえば、乳幼児がおもちゃを口に入れ飲み込むということは合理的に予見できる誤使用といえましょう。ですから乳幼児が飲み込むことにより窒息死する危険があるおもちゃには欠陥がありメーカーは賠償責任を負います。
 しかし合理的に予見できない誤使用についてまで防止措置をとる必要はありません。たとえば、猫を電子レンジで乾かすということは合理的に予見できませんから、「猫を電子レンジで乾かすと大火傷をする」という警告文がなくとも電子レンジには欠陥はないことになります。

第3「引き渡した時期」
 その時点の技術水準で、より安全な製品が他に存在したか等が考慮されます。
 これに関連して、産業界の強い要請によりPL法の中に「開発危険の抗弁」が盛り込まれました(4条1項)。メーカーは、「世界最高水準の科学・技術知識によっても、その当時、欠陥の存在を発見することはできなかった」との理由で製造物責任を免れることができます。その場合の被害者の救済をする社会保障制度は現在のところわが国にはありません。

第4「その他の事情」
 たとえば、自動車のエアバックのように安全性の高いオプションが用意されており、その説明がなされたにもかかわらず消費者がこれを選択しなかったというような事情があるときは、当該オプションが装着されていなかったことは欠陥に当たらないことになります。

責任追求の時効――
  損害発生から3年
  商品の引渡から10年

 製造物責任による損害賠償は、損害及び製造業者等の双方を知ってから3年以内に請求しないと時効となります。またメーカーが製品を販売業者や消費者に;引き渡してから10年たてば、同じく損害賠償は請求できません(5条1項)。例外的に「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害」又は「一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害」については、その損害が生じたときから10年を時効と定めています(5条2項)。

 そしてたとえPL法で時効となったとしても、損害賠償の請求は民法上の不法行為責任や債務不履行責任の規定をつかって追求することができます(6条)。この場合、不法行為責任なら被害者が損害及び加害者を知ってから3年以内、不法行為の時から20年間が時効となっています。

         *         *         *

 ちなみに、製造物責任を問えるのは「製造又は加工された動産」(2条1項)であり、製造・加工以前の自然物(野菜・魚等)や土地・建物等の不動産はPL法の対象外です。
 また、責任を負うのは製造業者に限らず、輸入業者に対しても、さらには「販売元」として自己の名前を表示した者(実質的表示製造業者)などにも賠償請求ができます(2条3項)。



ホームページへカエル
「最近の法令改正」目次にもどる
次のページ(政治改革4法の成立)へ進む