借地借家法の制定
平成4年8月1日施行

期限付(更新のない)借地借家登場

ご安心を! 既存の契約はこれまでどおり

改正の背景――大正10年の制定・昭和16年の改正、そして…


 これまでの「借地法」「借家法」は、いずれも借主の地位の安定を目的として大正10年に制定されました。

 土地建物の賃貸借については一般的に「民法」の規定が適用されますが、この「民法」の規定だけでは賃借人の地位は大変弱いものとなります。期限がくると更新の合意ができないかぎり物件を返さねばならず、しかもいつ解約されるかもしれず、さらに地主・家主が変わった場合、賃借権はわざわざ登記しておかなければ新しい地主・家主に対抗できない、といったあんばいです。
 そこでまず、明治42年に「建物保護ニ関スル法律」が制定され、土地の借地権(賃借権)が登記されていなくても、借地上の建物について所有権を登記しておけば、新しい地主に賃借権を主張できることとなりました。
 さらに、大正10年の「借地法」「借家法」の制定により、借家権についても、借主が現実に建物の引渡しを受けて占有しているかぎりは、たとえ登記がなくとも新しい地主・家主に対しても賃借権を主張できることとしました。そして民法上の借主の弱点である期間・更新・解約につき借主の地位を少し強めるとともに建物買取請求権(借地)、造作買取請求権(借家)を定めて借主を保護し、これらの定めに反する特約をしても賃借人に不利なものは無効とすることにしました。〔造作買取請求権については法のくすり箱参照〕
☆建物買取請求権
 地主が借地契約の更新を拒否したため土地を明渡さねはばならなくなったときに、借地上の建物を地主に買い取らせることができる権利。間接的に契約の更新を促すものとして、大正10年の借地法制定のとき取り入れられた。
 新法でもこの権利は受け継がれた(13条)。ただし、当初の借地期間中に建物が焼失したり倒壊するなど滅失してしまって新しい建物が地主の承諾なしに再築された場合など、特別な事情があれば裁判所に請求して代金の支払いを猶予されるなどの措置がとれるようになった。


 この大正10年の「借地法」「借家法」は借主保護の旗じるしの下に作られましたが、肝心の存続期間については保障された期間が終わってしまうと、借地の場合、建物が残っていても貸主が積極的に反対すれば更新は認められず直ちに明渡さなければなりませんでした。まして借家の場合には、家主が解約だといえば6ヶ月後には契約は終了、借主は直ちに物件を返還しなければなりません。
 この点の保護が十分でないことが意識されて、昭和16年(戦時中、出征兵士の留守宅がおびやかされるような不都合があってはならない、といった論議も強かった)、契約の終了には「正当の事由」がなければならないというように、借主の立場を強化される改正がなされました。これにより、貸主に「正当の事由」がないかぎり、更新異議・更新拒絶・解約申入れのいずれもが無効とされたのです。
 そして現在に至るまで、基本的にこの「正当事由がなければ契約は更新されていく」という枠組みが維持されてきています。
 しかし戦後になって経済の発展が進み土地・住宅事情に変化がみられるに伴い、借地・借家関係へのニーズも多様化したと考えられます。今回の改正の発端となった法制審議会の答申(平成3年2月)は、現行の制度が画一的すぎるとの認識に立ち、より合理的なあり方は何かとの見地から見直したものとされています。

これまでの3法律の改正と一本化


 新しく施行される「借地借家法」は、これまでの「借地法」「借家法」および「建物保護ニ関スル法律」の3つの法律に必要な改正を施したうえ、これらを1本の法律に統合し、全面的にひらがな現代語文に書き改めたものです。ですから、新しい法律には、これまでの借地借家制度を内容的に変更した部分と、単にひらがな現代語文に書き改めたにとどまる部分とがあることになります。

現在ある借地・借家関係は「これまで通り」です


 ただし、すでに成立している借地・借家関係は、その「存続」についてこれまでどおりの扱いを受けることがはっきりしています。法律が変わっても、現在すでに土地や建物を借りている方々の安定性には変わりがありません(法附則6条)。このことは、既存の契約について何回更新があっても、あるいは売買や相続があって当事者が変わっても同様です。また当事者間で「新法施行後は新法による更新をする」というような合意をしても効力は認められません。
 なお借地・借家の存続保障に直接にかかわらない部分、たとえば、地代・家賃の増減紛争についての調停の利用(民事調停法の改正、後述)、建物の種類・構造・規模・用途・増改築などを制限する借地条件を変更するための裁判(17条)などには、改正法の規定が既存の借地・借家関係にも適用されることとなります。

新タイプ――更新を認めない借地・借家契約の創設


 さて、8月1日以降新規になされる契約について、新法では、更新はせず期間を区切った借地・借家制度を新しく認めることになりました。つまり、『正当事由がなければ契約は更新され続けていく』という現在の画一的な制度に一定の範囲で例外を認めたものです。
 借地については「定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「事業用借地権」の3つのタイプが、借家については「期限付借家権」の創設がなされました。
 まず「定期借地権」(22条)ですが、50年以上の期間を定めて借地契約をするもので、その際、契約の更新をしないことを特約として公正証書などの「書面」で契約しておくタイプです。契約の更新はせず一定期間で確定的に土地の利用が終了するわけですから、賃貸マンション・オフィスビルへの利用が見込まれます。
 次に「建物譲渡特約付借地権」(23条)ですが、これは30年以上の期間経過後に、借地上の建物を借地人から地主に譲渡するとの特約が借地契約とあわせてなされている借地権です。建物を地主が買取ることによって借地権はなくなってしまいますが、その場合でも借地人や借家人が当該建物を利用しているときには、引続き借家人として建物の利用を続けることができるようになっています。賃貸のアパート・マンション・オフィスビル・個人向分譲住宅に利用される可能性があります。
 また「事業用借地権」(24条)ですが、これはもっぱら事業に利用される建物の所有を目的とし、しかも期間が10年以上20年以下であり、契約は公正証書で締結するこ とが義務づけられています。借地期間は短いながら権利金などコストが安くつく利点があり、投下資本を15年前後で回収することが可能な事業、たとえば郊外の外食店・量販店・パチンコ店といった事業のための利用が予想されます。また工場や倉庫も考えられます。
 さて、借家について創設された「期限付き借家権」ですが、2つのタイプがあります。1つは家主の不在期間の建物賃貸借です。転勤や療養、親族の介護、あるいは定年後のために建てた家など、やむをえない事情により、建物を一定の期間自分の生活の本拠として使うことが困難であり、しかも、その期間がすぎれば再びまたその本拠として使うことが明らかな場合に適用されます。賃貸期間を確定して契約をするときにかぎって契約の更新をしない旨を特約することができます(38条)。これは、一旦家を貸したら返してもらえないという不都合の緩和をはかったものと考えられます。
 もう1つは取壊し予定建物の賃貸借で、建物を取り壊すときに賃貸借が終了することを特約できます(39条)。前述の定期借地権および事業用借地権は、期間が満了すれば原則として建物を取壊して土地を明渡さねばなりません。そこでこの規定が設けられました。もし借家契約の中にこうした特約がないなど、借地上に建っている建物の借家人が借地権の満了・消滅をその1年前までに知らなかったときは、明渡しに猶予期間を与えてその借家人を保護する措置がとられることとなっています(35条)。
 なお「期限付き借家権」については、どちらのタイプも書面で特約をしておくことが要件です。

[平成12年3月1日から、期間が満了すれば必ず明け渡す新しいタイプの借家契約も始まっています。くわしくは「そよ風」103号参照。]

存続期間の見直し――借地権当初30年、更新20年・10年


 これに対して、従来どおり更新制度のある普通の借地権ですが、これからは借地権の存続期間は一律30年となります。更新の場合は最初の更新にかぎり20年、以後の更新は10年ごととなります。しかしもっと長い期間を合意したときは、それによります(3条、4条)。また、期間内でも建物が朽廃すれば借地権は消滅するという従来の定めは、朽廃の認定が困難なので廃止されました。
 ちなみに旧規定では、(a)堅固な建物は60年、(b)その他の建物は30年(ただし、期間内に建物が朽廃すれば権利消滅)であり、契約で(a)堅固な建物30年以上、(b)その他の建物20年以上と定めたときはそれによるとなっていました。

正当の事由(解約条件)の具体化


 こうした普通の借地・借家契約において、契約の更新をはばんだり、または契約を解約する上で、さきに述べた「正当な事由」は今後も引続き大切な判断の柱となります。そこで、このたびの改正により判断の基準がより具体化・ 明確化されました(6条、28条)。
 これまでの正当事由の内容は、「貸主が自ら使用することを必要とする場合その他正当な事由がある場合」と示されているにすぎませんでした。しかし改正法は、正当の事由の存否を認定するにあたっては、次の事項を考慮しなければならないこととしました。すなわち当該土地又は建物について、@貸主及び借主が自己使用を必要とする事情、A賃貸借に関する従前の経過、B利用状況及び現況、C貸主が立退料の支払いを申し出た場合その内容が、各々考慮されて判断されることになります。
 なお正当事由についての改正内容は、実質上これまで判例で示されてきた内容と変わりはないのですが、借主等の抱く不安への配慮から、新法が施行されるまでに成立した借地借家関係には適用されないこととなっています(附則6条)。

地代・家賃増減はまず調停で解決を


 一方、地代・家賃の増額や減額についてですが、これもこれまでどおり事情の変化によって請求できます。たとえば、@土地・建物への課税の増減、A地価や建物価格の変動、その他経済事情の変動(物価・所得水準の変化等)、B周囲の地代・家賃との比較がその際の要素としてあげられています(11条、32条)。
 もしこうした増減要求がお互いに合意しないようなら、今後はまず、簡易裁判所で調停を申立てることとなります (調停前置主義、民事調停法24条の2)。一般の裁判より迅速・安価に処理するために調停を経ることとなったものです。なお、調停の中でどうしても合意できなくとも、当事者お互いが「調停委員会が定める調停条項に服する」という書面の合意をすれば、調停委員会が作成した解決案で合意することもできます(調停条項の裁定、同24条の3)。ただしこの合意は調停が申立てられた後でなければならず、あらかじめ契約書の中でうたうようなことはできません。
 このほか、裁判所が、建物の種類や構造、用途、あるいは増改築を制限する借地条件を変更することもできるようになる(17条)などの改正が注目されます。
 この新しい法律が、時代に即応して借地借家のメニューを適切にふやすという反面、基本的に借主の地位の安定を図るというこれまでの借地法・借家法の基本精神を損なうことにならないよう、関心を持続する必要がありましょう。




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