被害者の権利実現をめざし刑事裁判が変わる!
被害者も裁判に参加〜刑事訴訟法の一部改正〜
迅速に損害賠償命令〜犯罪被害者保護法の一部改正〜
H20.12.1施行



 いよいよ平成21年5月21日から裁判員制度がスタートします。今、刑事裁判が大きく変わろうとしています。
 今号では、ひと足早く平成20年12月から始まった、刑事裁判への「被害者参加」と「損害賠償命令」について取り上げましょう。

刑事裁判は
   社会秩序の維持と共に
   被害者のためにもある

 刑事裁判は社会の秩序維持のためにあり、被害者の利益はその反射的なものにすぎない(平成2年2月20日最高裁判決)──この考え方により、被害者は刑事裁判の中では「証拠品」と同様の扱いとされてきました。法廷では、公益を代表する検察官と犯人(被告人)を弁護する弁護人が争い、事件の当事者である被害者はそれを傍聴席から聞いていることしかできませんでした。
 しかし、犯罪被害者の権利を認める法改正・新法制定が相次ぎ(平成12年犯罪被害者保護法制定と刑事訴訟法改正−そよ風109号、平成17年犯罪被害者基本法制定−そよ風135号)、「刑事裁判は被害者のためにもある」という新たな考えが受け入れられるようになりました。そして、このたび「刑事訴訟法」が改正され、新たに犯罪被害者が刑事裁判に参加する道が開かれました。
 犯罪被害者には「被害者参加人」という裁判上の地位が与えられ、刑事裁判に参加することができます。ただ、検察官や弁護人と対等・平等の独立の立場というわけではなく、あくまで検察官と密接なコミュニケーションをとりながら、真実の解明に向けて裁判に参加することとなります。

被害者参加人として
   検事の隣に在廷
   直接被告人質問も

 刑事裁判に参加を希望する被害者(未成年の場合は親権者等。被害者が死亡または重症等で参加できない場合は、その配偶者、父母・祖父母や子・孫、兄弟姉妹)は、検察官を通じて裁判への参加を申し出ることができます。これが認められれば(暴力団同士の抗争等、不適当な場合を除き基本的には認められる見込み)、「被害者参加人」という地位が与えられ、刑事裁判の中で、次のような点で参加することができることとなります(刑事訴訟法316条の33)。

(1) 公判期日への出席(同法316条の34)
 傍聴席ではなく、法廷の柵の中、検事の横や後ろに席が設けられます。ただし、多人数すぎるとか後の証言に影響が出る場合など、人数制限をされたり一部日程に出席が認められないケースもあります。
(2) 検察官への意見(同法316条の35)
 検察官に対して、訴訟の進め方について意見を述べることができ、検察官からはそれに対して必要に応じて説明がなされます。
(3) 証人尋問への参加(同法316条の36)
 情状証人には、検察官の尋問のあとで直接尋問することも可能です。ただし、犯罪事実や犯意について尋ねることはできません。また、その証人がすでに証言した内容に限っての質問となります。具体的には、示談や謝罪の経過をめぐって証言内容がウソであると反論したり、今後の監督責任がほんとうに果たせるのかといった内容に限定されることとなる見込みです。
(4) 被告人質問への参加(同法316条の37)
 被告人への質問については、犯罪事実に関する質問もOKです。供述内容が犯行当時の事実と異なるならその矛盾点について質問することもできますし、まったく新たな質問をすることも可能です。
 ただ、(3)・(4)の質問に際しては、事前に検察官に質問事項を言って、検察官自身が質問するか被害者参加人が質問するかを決めます。そして、被告人・弁護人の意見を聞いて裁判所が許可をし、裁判官の指揮にしたがって被害者参加人が質問することとなります。
(5) 意見陳述(同法316条の38)
 一般に、被害者やその遺族は、法廷で被害に関する心情、思いの丈を述べる(あるいは書面で陳述)ことができます(同法292条の2)。そしてこの発言は、犯罪事実の認定にこそ用いられませんが、量刑を決める際の参考とされます。
 被害者参加人の場合は、これに加えて、犯罪事実や法律の適用をめぐっての意見も述べることができます。事前に検察官にその意見の要旨を伝えておき、証拠調べが終わって検察官による論告・求刑がなされた後に、意見陳述をすることとなります。ただし、傷害致死事件として起訴されているのにこれは殺人だと言ったり、起訴された罪状では最も重い刑でも無期懲役刑なのに死刑を求めるなど、訴因を超えて発言することは制限されます。また、これらの発言は、検察官の論告や弁護人の最終弁論と同様、あくまで意見であり、証拠としての価値はありません。

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 このように、被害者参加人は限定した形で刑事裁判に参加します。独自に起訴内容を決めたり、独自に証人請求をしたり、判決に不服だからと独自に上訴を決めることはできず、あくまで検察官と密接な連絡をとりながら活動することになります。

被告人には国選弁護人。
被害者にも国選被害者参加弁護士制度がスタート

 被害者参加人には、状況に応じて、付添人を付けたり、あるいは、被告人や傍聴席との間を遮蔽するなどの措置もとることができ、二次的被害が生じないよう配慮がなされます(同法316条の39)。
 また、犯人(被告人)にはプロである弁護士(弁護人)がついているわけですが、被害者参加人も、弁護士をつけることがもちろん可能です。資力のない被害者のためには、国選弁護人制度に対応する「国選被害者参加弁護士」制度もスタートしました。
 ただ、この刑事裁判への被害者参加制度の対象となるのは、一定の罪で起訴された場合に限られます。人の生命・身体・自由に被害を及ぼす犯罪、具体的には、故意に人を死傷させた罪、強制わいせつ・強姦等、業務上過失致死傷・危険運転致死傷等、逮捕・監禁、略取・誘拐・人身売買等、あるいはこれを含む罪(たとえば強盗致死傷など)やこれらの未遂罪が対象となります(同法316条の33)。
 この新制度は平成20年12月1日施行ですが、この日以降に起訴された事件について適用されますので、実際に被害者参加人が法廷に立つのは来年に入ってからです。とはいえ、被害者が事前準備をして新制度がスムーズに行えるようにと、すでに検察庁では、初公判前に供述調書や実況見分調書を被害者や遺族に開示するよう通達が出されました。

高い!長い!難しい!
  犯罪被害の損害賠償
     請求するには重い負担

  さて、犯罪被害者にとって大きな負担となっているのが、損害賠償請求のしくみです。

 従来は、刑事裁判とはまったく別に、民事訴訟を提起するしかありませんでした。民事訴訟では被害を立証するのは被害者側の責任です。そのため、裁判所へは申立手数料(請求額により、2000万円なら8万円、3000万円なら11万円などと規定がある)を負担し、しかも、素人が提訴するのは難しいため弁護士に依頼し、さらに、立証のために刑事裁判の大部の記録の謄写を請求し(有料)、これをさらに証拠として改めて提出し直す必要がある等々。費用の面でも、長期に及ぶという意味でも、被害者の負担はきわめて大きなものでした。
 そこで、短期に決着し、しかも費用は安く、刑事記録をそのまま活用できるようにと、新たな制度がスタートしました。

刑事裁判を担当した裁判官が損害賠償命令を出す

 「犯罪被害者保護法」(正式名称:犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律と改称)の中に、この新制度は導入されました。
 被害者・遺族は、刑事事件を担当する裁判所に、その刑事裁判の審理が終結するまでに、「損害賠償命令の申立書」を提出します(犯罪被害者保護法9条)。その書面には、請求額とその内訳を記載すればよく、原因となる事実については起訴状を引用することができます。申立手数料は2,000円のみ。
 ただ、この損害賠償命令の対象となるのは、やはり限定された罪だけです。人の生命・身体・自由に被害を及ぼした犯罪のうち過失によるものは除かれます。具体的には、前述の被害者参加人制度の対象となる罪から、業務上過失致死傷・危険運転致死傷等を除いた罪が対象です。この新制度は、短期で解決しようとするもので、過失については自動車事故の損害賠償事件などで明らかなように、過失割合をめぐって長期の争いになることが避けられず、新制度の対象からはずされたものです。

原則4回で終結
決定に不服なら通常の民事訴訟(第1審)に移行

 さて、刑事事件の裁判所は、この申立を受け取っても、刑事事件で有罪判決が出るまでは、一切何もしません(同法12条)。刑事裁判の判断に、民事訴訟が持ち込まれて混乱することを避けるためです。


 ちなみに、刑事裁判の途中で、被害者と被告人の間で示談の話がまとまったときには、その和解内容を公判調書に記載し、実行しなければ取立など強制執行ができるという制度も別途あります(同法5条、右図参照、そよ風109号)。
 そうして新制度では、有罪判決が出た直後に、ようやく1回目の審理が開かれることになります。担当するのは当該刑事裁判を指揮した裁判官です。この初回期日に、刑事記録の取調べをすませてしまいます(形式的なものとなる)。以後、2回目の期日にはお互いの主張を整理して、3回目の期日で尋問等証拠調べをし、4回目で最後の主張までして審理を終結させると、原則4回の期日で終了です(同法16条)。もしこれ以上かかるような複雑なものについては、通常の民事訴訟へ移行させることになります。
 さて、審理を終えて、損害賠償命令では、通常の「判決」ではなく「決定書」が作成されます(理由については要旨のみの記載となる。また、口頭で決定内容を告知して調書にすることもある。同法18条)。
 もしその内容に不服がある場合には、この決定書を受け取って(あるいは告知を受けて)2週間以内に、裁判所に異議の申立てをすることができます。この異議申立がされると、自動的に、通常の民事裁判(第1審となる)に移行することとなります(同法19・20条)。
 この2週間が経過すれば、決定は確定して、確定判決と同一の効力をもつこととなり、この決定書に基づいて、預貯金や給与を差し押さえたり不動産を競売するなどの強制執行をすることも可能です。
 一方、通常の民事裁判に移行した場合には、請求している額に応じて裁判所へさらに手数料を納付する必要がありますが、刑事事件の記録は自動的にこの民事裁判に送付されることになり、改めて証拠として提出する必要はありません(同法21条)。
 ところで、刑事事件の記録の閲覧や謄写は、その事件の被害者や遺族が申請すれば、ただ事実を知りたいとの理由であっても、原則として認められるようになりました。さらには、損害賠償請求のために必要なら、同一犯人による同種の余罪事件の記録を謄写することも許可されます(同法3・4条)。
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 犯罪被害者の権利を実現するために導入された新制度が、実際にうまく運用・活用されるのか、平成21年5月からの裁判員制度の導入とあいまって問題点は生じないのか──改正法は、3年後に見直され、必要に応じて手直しされる予定です。




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