凶悪な犯罪には厳罰を!
有期刑延長 死刑─減軽→無期懲役─減軽→懲役15年30年
時効も延長 殺人の公訴時効は15年25年へ
刑法等の改正〜H17.1.1施行〜


 かつて、日本は世界でも有数の安全な国といわれてきました。しかし、不況を背景に1996年以降、犯罪発生件数は増えつづけ、2002年には285万件とピークに達しています。とくに近年「凶悪犯罪」といわれる殺人・強盗・放火・強姦の罪が著しく増加しており、「安全神話」は過去のものとなりました。実際、ここ数年の間にピッキング対策や防犯ベルなど、身近な防犯グッズに関心を持たれた方も多いのではないでしょうか。
 こうした犯罪の増加や凶悪化に歯止めをかけるため、法定刑の見直しと公訴時効期間の延長を柱とする「刑法」等の改正がなされ、平成17年1月1日に施行されました。

有期刑の上限引上げなど――約百年ぶりの見直し

 法定刑については、1907年(明治40年)の刑法制定以来、抜本的な見直しがなされてきませんでした。このため、死刑や無期は別として、一定の期間を定めて懲役・禁錮(ことば欄参照)に処する有期刑ついては、これまでは最長でも20年と定められたままでした。しかし、100年近くの間に、国民の平均寿命が大幅に延びたことや、制定当時には想定できなかった凶悪な犯罪も増加し、実情に合わないものとなっていました。

 そこで今回の改正で以下のように、有期刑の上限が一斉に引き上げられました。

(1) 有期の懲役・禁錮は1ヶ月以上20年(改正前は15年)以下とする(刑法12・13条)。
 法定刑が「〜年以上の有期懲役・禁錮」とされる犯罪についてその上限を引き上げるもので、強姦罪・殺人罪・傷害致死罪・強盗罪などが対象となります。たとえば、強盗罪は「5年以上の有期懲役に処する」(236条)とされていますので、強盗罪の法定刑は5年以上20年以下の懲役ということになります。
(2) 死刑又は無期の懲役・禁錮刑を減軽して有期の懲役・禁錮とする場合は、その上限を30年とする(14条1項)。
 情状や心神耗弱などを理由に死刑や無期懲役から減軽される場合、これまでは有期刑の上限である15年が最長でしたが、新たに上限を30年とする規定が設けられました。
(3) 有期の懲役・禁錮を加重する場合も、上限は30年(改正前は20年)とする(14条2項)。
 2つ以上の罪を犯して併合罪として同時に裁かれるときや、刑の執行が終わってから5年以内に再び罪を犯した再犯のケースでは、その刑が加重されることがあります(47条・57条)。この加重刑の上限が30年に引き上げられました。

時勢に合った刑罰を――殺人罪は3年→5年以上

 とくに凶悪犯罪への刑を重くするということで、個別の罪についても、以下のとおり刑の見直しが図られています。

△殺人罪(刑法199条)
 死刑または無期若しくは5年(改正前は3年)以上の懲役
△傷害罪(同204条)
 15年(改正前は10年)以下の懲役又は50万円以下の罰金(同30万円以下の罰金又は科料。罰金・科料についてはことば欄参照
△危険運転致傷罪(同208条の2。平成13年12月新設。くわしくはそよ風117号参照)
 15年(改正前は10年)以下の懲役
△傷害致死罪(同205条)
 3年(改正前は2年)以上の有期懲役

 また、この刑法の改正に対応して、特別法で取り締まられている以下の凶悪犯罪の刑罰も同様に上限が引き上げられています。

▲組織的な殺人の罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条)
 死刑又は無期若しくは6年(改正前は5年)以上の懲役
▲加重傷害罪(暴力行為等処罰ニ関スル法律1条ノ2)
 銃や刀剣類を用いた傷害罪は1年以上15年(改正前は10年)以下の懲役

*       *       *

 ただ、以下の罪だけは刑が引き下げられています。

▽強盗致傷罪(刑法240条前段)
 無期または6年(改正前は7年)以上の懲役

 これは、事後強盗致傷(窃盗犯が盗んだ後逃げるときに家人に見つかるなどして結果的に暴行し、怪我をさせてしまった場合)などには比較的軽微なケースがありますが、そのようなときでも旧法では執行猶予ことば欄参照)にできなかったことから、法定刑の下限を酌量減軽で半減させると執行猶予にできる限界の6年に引き下げたものです。

性犯罪は重大犯罪!
     集団強姦罪など新設

 今回の刑法の改正では、このほかとくに、性的暴力への厳罰化がはかられました。大学生による集団婦女暴行事件、あるいはわいせつ目的に児童を狙う事件など、相つぐ性犯罪は大きな社会問題となっています。そこで、従来の刑が次のように引き上げられました。

◇強制わいせつ罪(刑法176条・178条1項)
 6ヶ月以上10年(改正前は7年)以下の懲役
◇強姦罪(同177条・178条2項)
 3年(改正前は2年)以上の有期懲役
◇強姦致死傷罪(同181条2項)
 無期又は5年以上の懲役(改正前は強制わいせつ致死傷罪と同様の扱いで無期又は3年以上の懲役)

 さらに、強姦罪のうちでも集団で暴行を行うものについては、その凶悪性がより強く非難されるべきであることから、以下の罪が新設され、より厳しい罰則が設けられました。

◇集団強姦等罪(刑法178条の2)
 2人以上の者が現場において共同して強姦罪等を侵した場合、4年以上の有期懲役に処する。
◇集団強姦等致死傷罪(同181条3項)
 集団強姦等罪又はその未遂罪を犯し、それによって被害者を死傷させた者を無期又は6年以上の懲役に処する。

 日本では、以前から、性犯罪が重大な犯罪であるという認識が薄いといわれます。今改正により、性犯罪を重く捉え、根絶していこうとする方向へ一歩前進したことは間違いありません。しかし、強姦罪の下限は懲役3年で、強盗罪の下限5年に比べて依然として低く、女性の性が物より軽く扱われている現実に変わりはないとの批判も残されました。今後も、厳罰化だけでなく、性教育や再発防止のための矯正教育、被害者・加害者双方への医療的なケアの体制を整えるなど、社会全体で性犯罪の問題に取り組んでいく必要があります。

重罪の時効も延長――
     死刑なら15年→25年

 今改正では、刑法等に加え「刑事訴訟法」も改正され、以下のように重罪の公訴時効が延長されました(250条1〜3号)。
DNA鑑定など新しい捜査技術の向上によって以前より過去にさかのぼっての捜査が可能となったこと、さらに平均寿命の延びを考えると、罪の重さに比べて公訴時効(犯罪が終わった時点から起訴が許されなくなるまでの期間)が短すぎるとの批判をうけたものです。

●死刑にあたる罪
 25年(改正前は15年)
●無期懲役又は禁錮にあたる罪
 15年(改正前は10年)
●上限が15年以上の懲役又は禁錮にあたる罪
 10年(新設)

 この改正が、時効を迎える犯罪被害者やその遺族のやり切れない思いに応えるものとなるよう、一層の捜査体制の充実と迅速化がさらにはかられねばなりません。

公訴時効一覧(刑事訴訟法250条)
公訴時効代表的な犯罪
死刑にあたる罪25年殺人罪・現住建造物等放火罪・内乱罪等
無期懲役・禁錮にあたる罪15年強盗致死傷罪・通貨偽造罪・身代金誘拐罪・強制わいせつ致死傷罪等
上限が15年以上の懲役・禁錮にあたる罪10年強盗罪・強姦罪・集団強姦罪等
上限が15年未満の懲役・禁錮にあたる罪7年強制わいせつ罪・公文書偽造罪等
上限が10年未満の懲役・禁錮にあたる罪5年横領罪・公正証書原本不実記載罪等
上限が5年未満の懲役・禁錮又は罰金にあたる罪3年贈賄罪・脅迫罪・住居侵入罪等
拘留又は科料にあたる罪1年失火罪・過失傷害罪・侮辱罪等

 刑務所入所者の約5割は再入所であるといわれます。犯罪を減らすためには、厳罰化だけでなく、社会復帰や矯正教育に力を入れることが必要であると同時に、私たち一人一人も犯罪に巻き込まれないよう注意し、地域住民同士が協力し合って犯罪を生み出さない社会をつくっていくことが緊要となっています。
*       *       *

 なお、これらの改正は、平成17年1月1日以降に犯罪の実行行為が行われた場合に適用されます(附則3条1・2項)。実行行為が新法の施行前であれば、裁判時に新法が施行されていたとしても、旧法が適用されることになります(刑法6条)。


ことば欄

☆ 懲役・禁錮(刑法12条・13条)
 主要な刑法犯罪に対する主な刑罰で、どちらも監獄に身柄を拘束して執行する。懲役は刑務作業が科されるが、禁錮は刑務作業を科されない(ただし、希望により作業に従事することも可能)。同一の刑期では禁錮は懲役より軽い刑として扱われる。また、禁錮は原則として政治犯や過失犯に対して科される。
 いずれも有期懲役(禁錮)と無期懲役(禁錮)があり、今改正で有期は1ヶ月以上20年(改正前は15年)以下に、加重するときは上限が30年(改正前は20年)となった。
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☆ 罰金・科料(刑法15条・17条)
 懲役・禁錮が身体の自由を制限する刑罰であるのに対して、金銭を納付させることを内容とする財産刑。
 平成3年の刑法改正により罰金額等は一斉に引き上げられた。罰金の最低額は原則として1万円以上。科料は1000円以上1万円未満で、最も軽い刑罰である。どちらも、完納できない場合には労役場(監獄に付設)に留置される。その期間は、罰金刑で1日以上2年以下、科料は1日以上30日以下。
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☆ 執行猶予(刑法25条・27条)
 刑の言渡しはするが、その執行を一定の間猶予し、猶予期間が過ぎればもはや刑を受けることはなく、有罪判決そのものも消滅する制度。ただし、猶予期間内に再犯すれば原則として刑は執行される。
 これまで禁錮以上の刑に処せられたことがない者(いわゆる初犯)、あるいは受刑後5年経過している者などが対象で、3年以下の懲役または禁錮刑及び50万円以下の罰金刑の場合に適用される。猶予期間は1年以上5年以下。
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